菊姫は2001年より全国新酒鑑評会に出品するのを止めました。
その理由について、以下にご説明申し上げます。
ご存知の通り、今年より主催が国の機関である国税庁から、一民間団体である独立行政法人・酒類総合研究所に変わり、出品自体も出品料を支払えばどこでも出品することが可能になりました。従来は各地方の国税局での厳しい審査が「予選」になっており、その予選を通過して始めて全国への出品が可能となっていましたが、今年からはどんな酒でも出品できるようになったということです。実際鑑評会の予審を通過できなかった酒の中には、およそ吟醸酒と呼べないレベルの酒もいくつかありました。出品点数が増えても、出品酒全体のレベルが下がってしまうのではあまり意味がありません。それは開催方法が変更になる話を聞いた時点である程度予想できることでした。
また、近年鑑評会で優秀な成績を収めるためには、カプロン酸エチルなどの強い香りを造り出す酵母株を使用することは必須であり、そういう株が人為的な突然変異や株同士の交配などにより全国で開発されています。香りが強い酒は香りと味のバランスからすると、香りに対して負けない味の濃さが必要になってきます。その結果、華やかさを超えて鼻につく程の香りと、甘みが強くくどいくらいの味の酒が入賞酒の主流になってきました。香りの強すぎる酒は最初の一口二口は飲めても、だんだん香りが鼻につくようになって、飲みづらくなってゆきます。香りと味のバランスが取れており後味のキレが良い酒は、飲み飽きせず次々と杯が進みます。菊姫が造っている吟醸酒は、もちろん後者の酒です。
そもそもの鑑評会の目的は、酒造技術者の技術練磨であったはずです。誰が造っても香りが出る酵母を使って、およそ飲める酒とはかけ離れた味の酒を造ることに、どんな意味があるのでしょう。このような酒造りを続けていけば、どんな結末が待ち構えているかは容易に想像がつきます。吟醸造りの技術自体が廃れてゆくのも時間の問題でしょう。本来吟醸造りは、酵母の品種特性だけに頼るのではなく、麹造りなどの工夫で酵母の隠された能力を引き出し、香りと味のバランスを競うものだったはずです。飲んで旨い酒、消費者の皆様に喜んでいただける酒を造ることが蔵元の本分であり、様々な酒造りに対応できる技術の幅を身につけるために精進することが吟醸造りの本質ではないでしょうか。
昨年までは自社でも出品していながらこのようなことを云うのは、奇異なことのように思われるかもしれません。数年前に当社の杜氏のうちの一人が定年を迎えて退職し、翌年からは新体制での酒造りが始まりました。以前からの当社の信念として、「酒造りのノウハウは蔵元が持っているべき」であって「杜氏が変わったから味が変わった」ましてや「酒の品質が落ちた」などということは、絶対にあってはならないと考えています。全国新酒鑑評会に出品し、これまでと変わらない成績を収めることはそれを証明する一つの手段であったことは否定できません。おかげさまで、平成十年及び十一年酒造年度と連続して優秀な成績を納める事が出来ました。目的は十分に果たし得たと思います。これ以上出品することに当社としては意味を見出せなくなりました。
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