菊姫 > 菊姫の酒造り > 酒道入門 > 誤解されている日本酒の世界<壱>

菊姫の酒造り

誤解されている日本酒の世界<壱>

この酒は甘口?それとも辛口?

日本酒の分析値の一つに「日本酒度」(以下酒度)があります。これは、酒中のエキス分の多い・少ないを表す数値で、エキス分が多いほど比重が重く、酒度はマイナス側になります。一般的には、この数値で酒の甘辛度を表現しています。つまり、エキス分が多い=酒度がマイナス側の酒は「甘口」、逆にプラス側なら「辛口」と言うわけです。しかし、考えてみてください。例えば体重が50kgの人と70kgの人と比べて、単純に「70kgの人のほうが太っている」と言ってもよいものでしょうか。これは、身長や性別などの要素を含めて判断するべきことなのは、言うまでもありません。

日本酒も同様で、酒度が同じでも、酸やアミノ酸などの他の成分の量、アルコール分、酒の熟成度合などで口に感じる甘さは異なります。また、エキス分の量が同じでも、糖の種類などによって甘みの強さは異なります。しっかりした麹を造って米の旨みを引き出した酒は、酒の中に様々な成分が溶け出ており、複雑で深い味わいを持っています。逆に糖化酵素などを使って甘く造った酒は、味が単調で甘いだけなので飲み飽きしやすいでしょう。こういう酒ならむしろ「甘みの少ないスッキリした酒の方が飲みやすい」と言う気持ちも分かります。しかし、それが本当の意味で良い酒と言えるでしょう。

日本酒本来の魅力とは

ご存知のように、日本酒は米を原料とした醸造酒です。とすれば「原料由来の味わいや、麹の旨みを生かした造りこそが本流である」と菊姫は考えます。「淡麗辛口」は行き着くところまで行けば、醸造酒である日本酒自体を否定することにならないでしょうか。それならば、初めからエキス分のほとんど無い蒸留酒を飲めばよい、ということになりそうだからです。

実際、日本酒の消費が大幅に落ち込んでいる半面、一時期の地酒ブームのように焼酎が売れているのは、こういう事と無関係とは言い切れないと思います。良くできた焼酎や泡盛の中には、一部清酒よりも旨みを感じるものがあるというのは、実に皮肉な話です。また、必ずしも新しい試みを否定するものではありませんが、低アルコール酒や発泡清酒など、目先を変えることに注力しても、結局は一時凌ぎに過ぎないのではないでしょうか。

菊姫は、これからも世の中ブームや時流に流されることなく、旨い酒を造り続けていきます。そして、日本酒本来の魅力を大切にした酒造りを、いつまでも守り続けていきます。